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歯髄温存療法(MTA治療・VPT)とは?歯の神経を残して寿命を延ばす最新治療

虫歯が進行しているので歯の神経を抜かないといけないと診断されたことはありませんか?

近年の歯科医療の発展により、従来なら神経を抜くしかないと考えられていた症例でも、歯の神経を残せる可能性が広がっています。その治療法が「歯髄温存療法」です。

歯髄温存療法は、MTAセメントという特殊な生体材料を使用し、マイクロスコープによる精密な治療で、可能な限り歯の神経を保存する治療法です。神経を残すことで、歯の寿命を延ばし、自然な痛覚や温度感覚も維持できます。

このページでは、歯髄温存療法の仕組みやメリット、治療の流れ、費用まで、詳しくご説明します。歯の健康を長期的に維持したい方はもちろん、「神経を抜くしかない」と言われた方も、ぜひご一読ください。

 

下高井戸デンタルオフィスでは、虫歯の初期段階での治療に積極的に取り組んでおります。東京都で丁寧で正確・精密な虫歯治療をお探しの方は、ぜひ当院にお越しください。

 

歯の神経を守る歯髄温存療法(VPT)とは

歯髄温存療法とは、虫歯などで歯髄(歯の神経)が傷ついてしまった際に、できる限り神経を残して歯の機能を維持する治療法です。

歯髄温存療法とは、虫歯などで歯髄(歯の神経)が傷ついてしまった際に、できる限り神経を残して歯の機能を維持する治療法です。

歯髄温存療法は、歯の寿命を延ばすだけでなく、歯の強度や知覚を維持できるというメリットがあります。

マイクロスコープや歯科用CTなどの技術革新により、歯の内部の状態をより精密に把握できるようになったことで、歯髄温存療法の成功率は近年飛躍的に向上しました。かつては成功率が低く、あまり採用されてこなかった治療法でしたが、現在では積極的に行う歯科医院が多くなっています。

定期検診を受けることによって、虫歯と歯周病は予防のできる疾患であることが長期の研究より示されています。そのような患者様にとって、抜歯となる原因の1位は歯根破折でした。しかも歯根破折は圧倒的に無髄歯(神経のない歯)に多かったそうです。つまり、従来の歯髄を抜いてしまうような虫歯治療が、歯根破折、ひいては抜歯に繋がっていたと考えることができます。

 

このことから人生100年時代と言われる超高齢社会の中で、末長く自分の歯を使っていくためにも、なるべく歯髄を抜かない虫歯治療=歯髄温存療法が重要となっています。

歯髄(神経)が果たす重要な役割

歯髄(神経)が果たす重要な役割

歯髄(歯の神経)には、主に2つの重要な役割があります。

 

  • 歯を守る防御機能
  • 痛みや温度を感じる感覚機能

 

歯髄温存療法は、虫歯に犯された歯の歯髄をなるべく保護することで、虫歯を治療しつつ上記の歯髄の機能を残すための治療です。

 

以下でそれぞれ、簡単にご説明します。

 

歯を守る防御機能

 

歯髄(神経)は、歯を守る防御機能を担っています。

 

虫歯や外傷が歯に影響を及ぼすと、歯髄は痛みを通じて異常を知らせ、早期治療のきっかけを作ります。さらに、細菌が侵入した際には、歯髄内の免疫細胞が防御反応を起こし、感染の拡大を抑えます。

 

歯髄は刺激に応じて象牙質を再生する「第三象牙質」を形成し、細菌から歯を守るバリアを作ります。これにより、歯髄が健全であれば、歯の健康維持や寿命延長に繋がり、歯の喪失リスクを軽減できます。

 

このような機能をもつ歯髄を虫歯治療で抜いてしまうと、その後の歯の寿命が著しく減ってしまうのです。

 

痛みや温度を感じる感覚機能

 

歯髄(神経)は痛みや温度を感じる感覚機能を担っています。

 

歯髄には2種類の神経線維が存在します。それぞれ、冷温刺激や鋭い痛みを感じる神経と、持続する鈍い痛みを感じる神経と、役割が分かれています。

 

研究によると、虫歯が象牙質まで進行すると冷温刺激を感じる神経が反応し、7割以上の方が冷たい飲食物で痛みを感じるようになります。これによって、歯髄は歯を守る警告システムとして機能しており、現代では虫歯の早期治療に繋がっています。

 

神経を失うと温度変化への感覚がなくなり、異常の早期発見が難しくなるため、歯髄温存療法でなるべく神経を残す治療が重要なのです。

 

歯髄温存療法と歯髄保存療法に違いはあるのか?

歯髄温存療法と歯髄保存療法に違いはあるのか?

項目 歯髄温存療法 歯髄保存療法
範囲 部分的な歯髄の温存に特化 歯髄温存を含む、広範な歯髄保護治療全般
適応 軽度の歯髄炎、神経に近い虫歯 虫歯予防、初期治療、歯髄に達しない段階
治療法の具体例 直接覆髄法、間接覆髄法、部分断髄法 歯髄温存療法+虫歯の早期除去や予防管理

 

「歯髄温存療法」と「歯髄保存療法」は、どちらも歯髄(神経)を残す治療法を指しますが、治療の目的や適応範囲に違いがあります。

 

1.歯髄温存療法(VitalPulpTherapy:VPT)

歯髄が部分的に炎症を起こしているが、健康な部分が残っている場合に、その健康な歯髄を温存し、神経全体を保つための治療です。歯髄温存療法は主に3つの具体的な治療方法に分けることができます。

  • 直接覆髄法:虫歯が神経に到達した部分をMTAなどで直接覆う。
  • 間接覆髄法:虫歯が歯髄に近いが到達していない場合、保護材で封鎖する。
  • 部分断髄法:炎症を起こしている歯髄の一部を除去し、残りを保護する。

軽度の歯髄炎や、虫歯が神経に達しそうな場合に適応される治療法です。

 

2.歯髄保存療法(PulpPreservationTherapy)

できる限り歯髄を保存し、歯髄全体にダメージが及ばないようにする、より広範な意味を持つ治療です。歯髄温存療法を含む、歯髄を守るためのあらゆる治療法を指します。

  • 歯髄温存療法の各種手法
  • 早期に虫歯を除去し、歯髄への影響を防ぐ治療
  • 虫歯予防や初期段階での治療管理

虫歯がまだ歯髄に達していない状態や、神経への影響を未然に防ぎたい場合には、歯髄保存療法での治療を検討します。歯髄保存療法という治療の大きな方針が決定したのちに、歯髄温存療法を含む治療によって、虫歯によるダメージが歯髄全体に及ぶことを防ぎます。

「歯髄温存療法」は具体的な治療法であり、「歯髄保存療法」は歯髄を守るための包括的な考え方です。

 

歯髄温存療法の適応症について

歯髄温存療法の適応症について

歯髄温存療法を行わない場合は、根管治療(抜髄)を行うことが一般的です。

 

しかし抜髄を行うと、歯髄を失うため、上記の歯を守る機能や痛みや温度を感じる機能が歯から失われてしまいます。その結果として抜髄された歯は、神経が残っている歯と比べて前歯で1.8倍、奥歯で7.4倍も割れやすくなってしまうという調査結果もあります。

 

このような理由から、当院ではできるだけ歯髄を残すために、歯髄温存療法を推奨しています。

 

ここでは、歯髄温存療法の適応症についてお話しします。

歯髄温存療法が推奨されるケース

歯髄温存療法が適応となるケースや推奨されるのは、以下のようなケースが該当します。

 

  • 若年層(特に6歳から20歳前後)の患者様の治療
  • 外傷による露髄の治療
  • 支台歯形成で多くの歯質を削除する場合の便宜抜髄の回避

 

以下でそれぞれ解説します。

①若年層(特に6歳から20歳前後)の患者様の治療

①若年層(特に6歳から20歳前後)の患者様の治療

若年者にとって歯髄温存療法は歯の健康と成長を守るために非常に重要な選択肢となります。主に以下の4つの観点から、若年層の歯髄は特に守る価値が高いと言えるでしょう。

  • 歯根の成長のため
  • 歯髄の修復能力が高い
  • 歯の寿命を守るため
  • 成長期の咬合(噛み合わせ)維持

1.特に永久歯が生え始める6歳〜12歳頃は、歯根が完全に形成されておらず、歯根の成長には歯髄が存在する必要があります。歯根の成長と根尖の閉鎖が完了するのは通常18歳〜20歳頃のため、6歳〜20歳前後までは特に歯髄温存療法で歯髄を守ることが大切です。

 

2.若年者の歯髄は、成人に比べて血流が豊富で修復能力が高いため、虫歯や外傷による軽度の炎症であれば自然治癒の可能性が高くなります。なるべく歯髄を残すことで、高い自然治癒力を維持できるのです。

 

3.歯の寿命を守るという観点でも、若年層の歯髄保護は重要です。抜髄すると歯が脆くなり、破折や早期喪失のリスクが高まります。患者様がまだ若いからこそ、できるだけ歯髄を残すことで、歯の寿命を延ばすことができます。

4.若年者は顎骨や咬合が成長途中にあり、歯の喪失や機能低下は成長に悪影響を及ぼします。神経を残すことで歯の機能を維持し、適切な噛み合わせの発育を助けます。

②外傷による露髄

歯に外傷による亀裂や破折がある場合、歯髄温存療法を行うことで細菌感染の拡大を防ぐことができます。

歯髄温存療法で根管の封鎖に用いるMTAセメントは、高い封鎖性と殺菌性を持ち、歯髄への細菌侵入を防ぐバリアとして機能します。従来であれば亀裂や破折によって抜歯を選択していた歯も、歯髄温存療法によって残せるケースが増えています。

③支台歯形成で多くの歯質を削除する場合の便宜抜髄の回避

ブリッジやクラウンなどの補綴処置を行う際、支台歯(土台となる歯)を形成するために、多くの歯質を削る必要があります。歯質を削る過程で歯髄が露出しなくとも、歯髄にはダメージが加わり、将来的に炎症を起こしたり感染が生じる可能性があります。

 

このような処置での炎症や感染を防ぐために、便宜抜髄が行われます。便宜抜髄とは、本来であれば抜髄の必要がない歯に対して、将来的な歯髄の炎症や感染のリスクを考慮し、予防的に抜髄を行うことです。

 

しかしここまでご説明した通り、抜髄には多くのデメリットがあります。そこで、支台歯形成で歯質を削る前に、必要に応じて歯髄温存療法で歯髄の保護を行うことで、便宜抜髄を回避できる可能性があります。

抜髄が必要となるケース

歯髄温存療法を行い抜髄を回避することが推奨されるケースを紹介しましたが、残念ながら歯髄温存療法では対応できないケースもございます。

 

  • 痛みを伴う重度の歯髄炎のケース
  • 歯髄が壊死しているケース

 

ここでは歯髄温存療法の対象外となる、抜髄が必要となるケースを2つご紹介します。

 

①痛みを伴う重度の歯髄炎のケース

痛みが強い重度の歯髄炎では、歯髄温存療法が難しく、抜髄(神経を取る処置)が必要になることがあります。

歯髄炎は、虫歯が進行して歯の神経まで細菌感染が広がることで起こります。軽い炎症であれば神経を残す治療ができますが、炎症が重くなると歯の神経全体が腫れたり、壊れてしまうことがあります。

特に「ズキズキする痛み」や「何もしていないのに痛む自発痛」さらに「温かいものを口に含むと痛みが続く」といった症状は、神経が元に戻らないサインです。こうなると、神経を残しても痛みが続いたり、細菌がさらに奥へ広がって膿がたまるリスクが高くなります。

歯髄温存療法は、健康な神経が部分的に残っていることが前提ですが、重度の炎症ではその健康な部分がなくなっているため、抜髄が必要になります。抜髄をすることで、痛みを取り除き、感染の拡大を防ぐことができます。放置すると、歯を支える骨にも影響が出るため、早めに神経を取り除き感染した組織を除去することが大切です。

②歯髄が壊死しているケース

歯髄が壊死しているケースでは、歯髄温存療法を行うことはできず、抜髄(神経を取り除く処置)が必要になります。

歯髄壊死は、虫歯の進行や外傷によって歯髄への血流が途絶え、神経が死んでしまった状態です。壊死した歯髄は自然に回復することがなく、細菌が繁殖しやすくなり、放置すると膿が溜まって根の先に炎症が広がる「根尖性歯周炎」を引き起こします。

神経が壊死しているため痛みは感じなくなることもありますが、感染が進むと腫れが生じたり、歯の周囲の組織から強い痛みが現れます。

歯髄温存療法は健康な神経が残っていることが前提ですが、壊死ではその条件を満たさないため、感染源を完全に取り除くために抜髄が必要です。早期に適切な治療を行うことで歯髄は失いますが、歯を保存しさらなる合併症を防ぐことができます。

 

MTAセメントによる最新の歯髄温存療法

MTAセメントによる最新の歯髄温存療法

現代の歯髄温存療法が高い成功率を誇るようになったのは、MTAセメントによるところが大きいです。

 

MTAセメントは主に歯髄温存療法や根管治療に用いられる歯科材料で、主に根管の封鎖を行う際に使用します。保険適用外の材料ではありますが、歯髄温存療法において非常に重要な役割を果たします。

 

MTAセメントの特徴とメリット・デメリット

特徴とメリット

MTAセメントは根管の封鎖の際に用いますが、従来の材料と比べて硬化後に緻密な構造を形成するため、細菌の侵入を防ぐ高い封鎖性を示します。またpH値が12.5と高アルカリ性なので、細菌の増殖を抑制する効果があります。

 

組織親和性も高いため、炎症を引き起こしにくく、安心して使用できます。歯髄細胞や骨芽細胞の活性を促進する作用も確認されており、象牙質や骨の再生を促す能力があるため、MTAを用いた覆髄治療の成功率は80%〜90%という高い水準が報告されています。(出典:Bogenetal.,2008

また、湿潤環境下でも硬化が可能なので、根管内や歯髄の処置に適しており、X線撮影でも確認ができることで予後の検査も容易です。

これらの特性から、MTAセメントは歯髄温存療法や根管治療で広く用いられ、治療の成功率の向上に寄与しています。

デメリット

MTAセメントを用いた歯髄温存療法は保険適用ではないため、保険診療の治療と比べて大きな費用がかかります。治療の成功率よりも、費用を抑えることを重視する方にとっては、この点はデメリットだと言えるでしょう。

 

そして、MTAセメントを使用した歯髄温存療法は成功率が非常に高くなりますが、100%成功するわけではなく、およそ90%〜95%と言われています。前提として、歯髄温存療法の成功は歯髄の健康状態に依存します。MTAセメントを使えば治るのではなく、細菌による感染を除去して健康な歯髄をMTAセメントで封鎖して保護することで、治る可能性が高くなるのです。

 

当院、下高井戸デンタルオフィスでは5年間で500症例の歯髄温存療法を行った歯について追跡調査した結果、成功率は96%でした。

 

従来の治療材料との比較

水酸化カルシウムとの違い

 

水酸化カルシウムは高いアルカリ性(pH12.5)で殺菌効果があり、歯髄保護や被覆髄に保険診療で長年使用されてきた材料です。しかし水酸化カルシウムは時間とともに分解されやすく、漏洩リスクがあります。

 

対してMTAセメントは水酸化カルシウムと同等の高アルカリ性を持ちながら、分解しにくいため、長期的な安定性があり、エビデンスに裏付けられた高い成功率があることから、当院ではMTAセメントを推奨しております。

 

歯髄温存療法の治療ステップ

歯髄温存療法の治療ステップ

実際に歯髄温存療法による治療を行う際には、以下のような手順で治療を行うことが一般的です。

 

  1. 術前検査と診断
  2. 治療時の感染予防対策
  3. マイクロスコープを用いた精密治療

 

基本的な治療の流れとしては、術前検査と診断によって、歯髄温存療法の適応となるかどうかを調べます。次に感染予防対策を行い、治療の中で根管内に細菌が入り込むことを防ぎます。衛生的な治療環境が構築できたら、マイクロスコープを用いて高い精度で歯髄温存療法の処置を行います。

 

これらの治療の流れについて、より詳しくは以下で解説します。

 

①術前検査と診断

①術前検査と診断

歯髄温存療法を成功させるためには、術前検査と正確な診断が非常に重要です。具体的には、以下のようなものを行います。

  • 視診(口腔内診査)
  • 打診検査
  • 冷診(温度診査)
  • 電気歯髄診断(パルプテスター)
  • X線検査(デンタルX線)
  • 歯科用CTによる精密診断

患者様にとって侵襲の少ない順に、主な検査方法とその診断目的を以下に紹介します。

 

1.視診(口腔内診査)

視診では、虫歯の大きさ、色調、破折の有無、歯肉の腫れや出血、う蝕の進行状態を目視で確認し、歯髄炎の可能性や感染の範囲、外傷の程度を判断します。視診は患者様に痛みが伴うこともなく、歯へのダメージも無いため、最初に行うべき検査です。

 

2.打診検査

軽く歯を叩いて痛みの有無を確認し、歯髄炎の進行度や根尖周囲組織の炎症の有無を調べます。打診の際に痛みがある場合は、根尖病変や歯髄壊死の可能性が高いと言われています。

 

3.冷診(温度診査)

冷却スプレーやアイススティックなどの、冷たい刺激を用いて痛みの反応を確認し、歯髄が健康か、可逆性または不可逆性の炎症があるかを判断します。冷診での反応が正常であれば歯髄が健康、痛みが持続する場合は不可逆性歯髄炎の可能性が高いとされています。

可逆性歯髄炎:適切な処置を行えば、症状が時間の経過とともに改善される
不可逆性歯髄炎:時間が経っても症状が軽減されることがなく、歯髄の温存が難しい

 

4.電気歯髄診断(パルプテスター)

微弱な電流を歯に与え、神経の反応を調べることで、歯髄の生死や反応性を確認します。電気診断は感度が高く、壊死した歯髄の診断に有効とされています。

 

5.X線検査(デンタルX線・CT撮影)

歯の内部や根尖部の状態を確認するために、レントゲン撮影を行います。虫歯の進行度や歯髄腔の状態、根尖病変の有無、破折の有無などが診断できます。特に、歯髄炎や根尖病変の診断には、デンタルX線が最も信頼性の高い検査とされています。

 

6.歯科用CTによる精密診断

歯科用CT(コーンビームCT:CBCT)は、従来のデンタルX線やパノラマX線では確認できない三次元的な情報を得るための画像検査です。例えば、通常のX線で確認が困難な根尖病変や歯根破折、複雑な根管形態の診断で有効です。

ただし放射線による被曝のリスクがあるため、必要な場合にのみ撮影が推奨されます。歯科用CTは医科用CTに比べて被曝線量が少なく、約19μSv~200μSvと言われています。参考として、胸部X線撮影は約50μSv、自然放射線被曝は年間約2100μSvと、ご心配には及ばない程度の被曝量です。

 

術前検査では、患者の負担を考慮し、①視診→②打診→③冷診→④電気歯髄診断→⑤X線検査→⑥歯科用CTによる精密診断、の順で行います。これにより、正確な診断を行い、適切な歯髄温存療法が可能かを判断します。適切な検査と診断によって、歯髄を残せる可能性が高まり、歯の寿命を延ばす治療へとつながります。

 

②治療時の感染予防対策

歯髄温存療法を行う際には、治療の成功率の向上と再感染のリスク軽減のために、徹底した感染予防対策が求められます。具体的には、以下のようなものを行います。

  • 歯垢の染め出しとエアフロー(パウダージェットクリーニング)
  • ラバーダム防湿法
  • 滅菌器具の使用

感染対策は挙げるとキリがありませんが、一例として上記をご紹介いたします。もちろん当院では上記を徹底することで、安全性の高い歯髄温存療法を実現しております。

 

1.歯垢の染め出しとエアフロー(パウダージェットクリーニング)

術前に歯垢を染め出してエアフローで除去することは、非常に効果的な感染予防対策の一つです。特に、歯髄温存療法や根管治療を行う際、口腔内の細菌量を減少させることで、治療の成功率を高めるとともに、感染リスクを抑えることができます。

歯垢染め出しにより、目に見えない細菌の塊(プラーク)を可視化します。エアフローは、微粒子のパウダーと水・エアーを用いて、歯面や歯肉縁下のプラークやバイオフィルムを効率的に除去します。

治療前に口腔内を清潔にすることで、細菌の治療部位への侵入を防ぎ、感染予防に繋がります。特に、歯髄温存療法や根管治療では無菌的環境が重要です。

 

2.ラバーダム防湿法

2.ラバーダム防湿法

ラバーダム防湿法は、治療する歯をゴム製のシート(ラバーダム)で覆い、口腔内から隔離する方法です。主に根管治療や歯髄温存療法、コンポジットレジン充填などで使用されます。

歯科治療において、感染予防は治療の成功と患者の安全に直結します。そのなかでも特に、ラバーダム防湿法は治療中の細菌感染リスクを低減し、予後を改善するために重要な役割を果たします。

ラバーダムで歯を覆うことで、唾液や血液に含まれる細菌の治療部位への侵入を防ぎ、無菌的な治療環境を確保します。これにより根管治療時の細菌感染を減少させ、再感染リスクを低減します。

また湿気を遮断するため、MTAセメントや接着性レジンなど湿気に弱い材料の成功率が向上する点や、治療中に器具や薬剤が患者の口腔内や気道に落ちるのを防ぐことができる点、治療部位が明確になり正確な処置が可能になる点など、非常に利点の多い治療です。

実際にラバーダムを使用した根管治療は、使用しない場合と比べて治療成功率が高いという研究結果もあるため、当院でもラバーダム防湿法は非常に重視しております。

 

3.滅菌器具の使用

感染予防対策のために、治療器具は患者様ごとに必ず高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)やガス滅菌で滅菌処理を行います。

高温・高圧により細菌やウイルス(HIV、肝炎ウイルスなど)を完全に死滅させ、根管治療用のハンドピースやバーなど、細かい器具も確実に滅菌します。当院では滅菌器具を使用することで、患者様に対して安全で信頼できる治療を提供しております。

 

③マイクロスコープを用いた精密治療

マイクロスコープを用いることで、歯科治療の精度が大幅に向上します。最大で20倍程度まで拡大できるため、肉眼では見えない細部を鮮明に確認できます。この高倍率により、う蝕の除去や感染部分の確認、微細な亀裂の診断が可能となり、治療の精度が向上します。

 

マイクロスコープを用いるメリット

 

マイクロスコープを活用することで、歯髄温存療法において感染した象牙質のみを精密に除去し、健康な部分を残すことができます。これにより、過剰切削を避け、患者様の歯の健康を守ることができます。さらに、根管治療時には、器具の操作ミスによる穿孔(パーフォレーション)や破折のリスクを軽減し、安全で確実な治療が可能となります。

 

具体的には、マイクロスコープで歯髄の状態を確認します。健康な歯髄は白っぽく見え毛細血管も確認できます。これにより歯髄を残せるかどうか、さらなる断髄が必要かどうかを判断します。

 

MTAセメントの充填精度も向上し、マイクロスコープを使用することで隙間なく充填を行い、細菌感染のリスクを低減することができます。実際、マイクロスコープを使用した根管治療や歯髄温存療法では成功率が向上することが証明されています。さらに、精密治療によってMTA充填の成功率が90%以上に達するという研究結果もあります。

 

また、微細な亀裂や二次う蝕を早期に発見できるため、早期に適切な処置が行える点も大きなメリットです。

 

保険適用の歯髄温存療法(ICP)と治療費用について

保険適用の歯髄温存療法(ICP)と治療費用について

日本の保険診療では、深い虫歯に適用される歯髄温存療法として、暫間的間接歯髄覆髄法(IndirectPulpCapping:ICP)があります。ICPは、ステップワイズエキシカベーションとも呼ばれ、虫歯が歯髄(神経)に達する一歩手前の段階で行う治療法です。

ICPは、特に永久歯が生えそろって間もない10代や、歯髄の再生能力が高い小児に対して有効な治療法です。若い年齢層では、歯髄の細胞が活発に活動しており、二次象牙質を形成する能力が高いことが理由です。また、歯髄腔が広く、歯髄への血流が豊富であることも、ICPの成功率を高める要因となります。

ただし、保険診療では覆髄剤の種類や治療法に制限があり、最新の材料や技術が使えず、虫歯の再発の可能性が否定しにくい側面があります。

 

保険診療の歯髄温存療法(ICP)の欠点 

患者さんに数ヶ月後にリエントリーを必ず行うと説明しても、患者さん自身が忘れてしまって来院しない。リエントリーまでの数ヶ月の間に、仮の蓋が外れてしまい、治療をやり治しになる場合がよくありますので、患者さんによく説明する必要があります。

 

暫間的間接歯髄覆髄法(ICP)は保険診療で歯髄温存療法を行えるという点では優れていますが、当院ではICPはおすすめしておりません。ICPの治療ステップとして、1回目の治療の後に必ず数ヶ月の期間を開けて、リエントリーという処置をする必要があります。

しかし残念ながら、患者様がリエントリーのための来院を忘れてしまい治療が上手くいかないケースや、リエントリーまでの数ヶ月間で歯を削った箇所の仮の蓋が外れてしまい、治療がやり直しになるケースがよくあり、当院ではICPは行っておりません。

 

保険診療の範囲と制限、費用

保険診療での適用範囲

  • 軽度の歯髄炎や歯髄への感染が軽微なケースに対して保険適用が認められています。
  • 使用できる材料や治療法に制限があり、主に水酸化カルシウムが対象です。

保険による制限事項

    • 使用できる材料の選択肢が限られる(高品質なMTAや特殊な器具は制限あり)。
    • マイクロスコープやラバーダム防湿法といった高度な技術を使用することが難しい。
  • 治療に十分な時間をかけることが難しい。
  • 歯垢を染め出して明示化し、完全に除去する。
  • 仮封の精度が低く、細菌や唾液の漏洩のリスクが高い

 

このように、保険診療には制限が多く、ICPの成功率を低下させ、再治療のリスクを高める可能性があります。

 

治療費用

ICPは保険適用ですが、複数回の通院が必要となるため、治療費の総額は処置回数によって異なります。一回の治療費は、初診料や再診料、検査、処置などの費用を合計して、3割負担で約2,100円~4,100円程度になります。(2025年現在)

  • 初診時:初診料、う蝕処置、歯髄保護処置、暫間充填、再診料
  • 再診時(リエントリー時):再診料、う蝕処置、歯髄保護処置、充填

ただし、これはあくまでも目安であり、患者の状態や処置内容によって費用は異なります。また、上記の費用には、パノラマ写真撮影や修復補綴の費用は含まれていません。

 

自由診療の歯髄温存療法のメリットと費用

自由診療の歯髄温存療法のメリットと費用

自由診療では、高品質な材料や最新の治療技術を使用することができます。例えば、MTAセメントやバイオセラミック材料など、成功率が高いとされる材料を使用することで、治療の効果を最大限に引き出すことが可能です。実際、MTAセメントを使用した覆髄法の成功率は80〜90%に達すると報告されています。

 

また、自由診療では、マイクロスコープやラバーダム防湿法など、精密な治療を支える高度な設備と技術を活用できます。これにより、より正確で低侵襲な治療を提供でき、患者様の負担を軽減します。

 

さらに、患者様一人ひとりのニーズに応じた治療が可能です。丁寧なカウンセリングを行い、十分な治療時間を確保することで、患者に最適な治療計画をカスタマイズすることができます。このように、自由診療は個別のニーズに対応した質の高い治療を提供できる点が大きな魅力です。

 

治療費用

自由診療の場合、治療費用は医院によって異なりますが、一般的には1本あたり30,000円〜50,000円程度が相場となります。高度な材料や設備、精密な治療技術を使用するため、保険診療に比べて費用は高くなります。しかしその分、より高い治療精度や成功率が期待でき、患者様にとってのメリットも大きいといえます。

歯髄温存療法は、保険診療でも手軽に受けられますが、使用材料や技術に制限があり治療の成功率に影響します。一方で自由診療では費用が少しかかりますが、高品質な材料や高度な設備が利用できるため、より精密で成功率の高い治療が可能です。

費用を抑えたい場合は保険診療を利用するという考え方もありますが、保険診療で虫歯が再発し何度も治療を繰り返すケースも見聞きします。患者様一人ひとりのニーズに合わせて、最適な治療方法をご検討ください。

 

歯髄温存療法の治療直後の注意点

歯髄温存療法を受けた後は数日ほど、しみたり違和感が出る場合があります。部分断髄されているので、神経が過敏になっているからです。

治療後は、治療を受けた歯で極端に硬いものを食べたり、極端に熱い・冷たいものが触れないように歯髄を労ってあげてください。通常であれば、違和感が落ち着いてきます。

歯髄温存療法を受けた歯の噛み合わせがわずかに高くなっていて、当たりが強いと歯髄温存療法が成功していたとしても歯に違和感が出ることもあります。その場合は噛み合わせの調整が必要になります。

また場合によっては神経を取る治療に移行するケースもあります。ですので違和感が続くようでしたら担当の先生に相談してください。

 

まとめ:早期発見・早期治療で歯の寿命を守る「歯髄温存療法」

まとめ:早期発見・早期治療で歯の寿命を守る「歯髄温存療法」

「初期虫歯は経過観察でいい」という意見を耳にしたことがあるかもしれません。しかし、その判断が後悔につながるケースも少なくありません。私たちが日々の診療でよく見かけるのは、「初期だから大丈夫」と放置した結果、虫歯が進行し、最終的に神経を取る抜髄に至ってしまう患者さんです。

虫歯はただの歯の表面の穴ではありません。虫歯菌は、まるでスポンジに水が染み込むように歯の内部へ浸透し、目に見えないところまで進行していきます。初期のうちに「少し削れば済む」程度だった虫歯が、放置すると次第に深く広がり、いざ治療しようとした時には、歯の神経まで感染していることが多いのです。

虫歯は浸透する『見えない侵略者』

治療中に「削っても削っても虫歯が取り切れない」というケースは、虫歯が内部深くまで広がってしまった結果です。こうなると、神経を取る抜髄が避けられなくなります。抜髄をした歯は、神経がある歯に比べてしなやかさを失いやすく、長期間の使用で破折のリスクが高まります。

神経をとっていいことは何一つありません。もし神経をとる治療を選択した場合、自費根管治療を選択したり、その後にセラミックの歯で治したり、予後不良で抜歯になってインプラントになったりするかもしれません。それらと比べても歯髄温存療法を選択した方が長期的に見ると圧倒的にかかる費用は安くなります。

「初期虫歯だから大丈夫」と考えるのではなく、違和感や軽い痛みを感じたら、それは歯からのSOSサインです。虫歯が神経に達する前に歯髄温存療法で治療できるチャンスなのです。

あなたの大切な歯を長く守るために、今、早めの一歩を踏み出しませんか?少しでも気になる症状があれば、ぜひ下高井戸デンタルオフィスにご相談ください。

 

執筆者情報

写真:瀧本 将嗣

院長/歯科医師

Masatsugu Takimoto

【経歴】
1997年 広島大学歯学部卒業
2004年 シエル歯科クリニック開設
2007年 医療法人社団瀧の会設立

【所属学会】

  • 厚生労働省認定臨床研修指導歯科医
  • 日本臨床歯周病学会 認定医
  • 日本歯周病学会
  • アメリカ歯周病学会(AAP)
  • 日本先進歯科医療研修機関(JIADS)

歯周病系の学会やスタディグループに所属し歯周病治療やインプラントの研鑽を積むが歯髄保存やダイレクトボンディングも得意とする。
長持ちする治療をモットーに、できるだけ患者ニーズに応えられるようにしている。